
何時もの、散歩コースにあるマロニエ並木にあるベンチ。
ハンケチで額の汗をぬぐいながら、ちょっと微睡(まどろむ)。
何故か、懐かしい想い出が脳裏をかすめる。
七月の風
夏の強い日差しを遮るように、マロニエの大きな葉がベンチに木陰をつくっている。
歩き疲れてベンチに腰を下ろすと、心地よい風が汗を冷やしてくれる。
時折、マロニエ並木の奥にある噴水が水しぶきを上げ、霧の中に虹を作り乾ききった熱い空気を潤してくれる。
マロニエの幹の小枝に、水色のリボンの付いた白い小さな麦藁帽子が風に揺れている。
誰かが忘れて行ったのだろう。

その光景を見ていると、昔読んだことのある若くして逝った”堀辰雄”の小説を思い出す。
「ルウベンスの偽画」の黄色い帽子の女性。
「麦藁帽子」の中の女性。
「美しい村」の高原の避暑地での出来事。
そして、富士見高原療養所(サナトリウム)を舞台にした作者と婚約者との療養を描いた「風たちぬ」
軽井沢高原の避暑地を舞台にした数々の名作。
白い小さな麦藁帽子は、マロニエ並木を渡る心地よい風と共に私をフランス文学風の甘美な「堀辰雄」の世界に誘ってくれる。
そんな心地好い「七月の風」
“今はもう 行ってしまった 人なのに 梢に揺れる 麦藁帽子”
(詠み人 麗さん。こぶし町在住の方です)