
一風呂浴び、ビ-ルを片手に庭に出る。
火照った体に、秋の風が心地よい。
見上げれば雲間に満月がこちらを覗いている。
「秋だなぁ-、もうすぐ十五夜かぁ-。」
庭の隅の草の中では、秋の虫が声を競うかのように鳴いている。
雲に隠れる月を見ながら遠い昔を思い出す。
「ぼうじぼ当たれ、大麦小麦三角四角の蕎麦当たれ......」
「何人来たんだい」
「五人です」
「それじゃ、これ」
家主から紙包みをもらう。
「わらでっぽう」を小脇に抱え礼を言って次の家に向かう。
もう30数年も前の十五夜である。(昭和30年後半頃)
農家で「五穀豊穣」を願い害虫を追い出すための行事である。
「わらでっぽう」は、稲藁を筒状に縄でぐるぐる巻いて握りを作り中に芋がらを入れた物。
前の日に父に作ってもらった。
部落中の家々を其れを持って回り、家々の庭を囃子ながら、それで叩きこずかいを貰うのである。
丈夫に作ってもらわないと、縄が解けてバラバラになってしまった。
家々の縁側には「ちゃぶ台」が置かれ、一升瓶に五本のススキを差し、皿には団子、さつまいも、大根、栗など新物が供えられていた。
部落には50件ほどの家があり、暗闇の中月明かりを頼りに全部回るのである。
一件で一人に5円から10円位貰えた。
病院や作り酒屋などは多く貰えるので、顔ぶれを変えて数回行った覚えがある。
回り終えると、消防小屋の丸い赤電灯の下で貰ったお金を仲間で分けた。
お金は、もうすぐやってくる秋の運動会のこずかいにあてた。
使い終わった「わらでっぽう」は、来年実がなるようにと柿や梅の木などに掛けておいた。
もうすぐ秋、田舎では稲田が黄金色に輝いて居ることだろう。