ベンチ(夏)

百日紅の真っ赤な色彩から甘い魅惑的な馨しさに誘われて、蜜蜂が羽音を発しながら
花に纏わりついている。

その甘い香りに誘われて、私も百日紅の花に顔を近づけてみた。
甘い香りは真夏のギラギラした日差しの暑さを一瞬忘れさせてくれる。

遠い昔、裸足で登った百日紅の滑々とした木肌の感触が思い出され木の上で嗅いだ花の甘い馨しさは昔と変っていない。

百日紅の奥に続くケヤキ並木は、紅の色とは対照的に濃い緑の葉で覆われている。
その下に置いてあるベンチには涼しげな木陰を作っている。

ケヤキ並木の木陰からはみ出たベンチには、夏の強い日ざしが容赦なく照り付けていた。
その木陰に腰を掛けながら額に吹き出た汗を拭う。

麦藁帽子を被った小さな女の子と若い夫婦が目の前を通り過ぎて行った。
その後からは百日紅で嗅いだような微かな甘い香りが風に揺れていた。

”みどり濃き けやきの影の うつろいて 人まちがおの ベンチがひとつ”

(詠み人  麗さん。こぶし町在住の方です)