風のつぶやき

写真について(二)

写真展は最上階の催事場で開催されていた。
確か半切の写真がパネルに貼られ、カラー作品とモノクロ作品が数十点ほど展示されていたと思う。
私が一番目に焼きついている作品は,真っ黒な空に煙のようにもくもくと湧きあがる積乱雲のモノクロ写真であった。全体の五分の一が地上部分,五分の四が空と雲に占められた構図で引き締まった黒い空にくっきりと描かれた積乱雲は恐ろしささえ感じられた。

私はその会場へキャビネに伸ばした雲のモノクロ写真を数枚持っていった。そして鈴木先生に評して頂こうかと思っていた。しかし私が行った時先生は不在で先生の友人と云う方が私の話を聞いてくれた。でもその方は先生の撮影データーなどは知る由もなく、まして20歳そこそこの私の写真を見ても先生に話しておきますよ。と、にべのない返事であった。
それからというもの、私は以前にもまして雲の魅力にとり付かれ、カメラにはモノクロフイルムを常備装填し、休日は勿論のこと会社の休み時間にもカメラを持ち出して雲の写真を撮る始末であった。

また、写真には飽きたらず易しい気象学の書物なども読み始め、ラジオ用天気図用紙を取り寄せて気象天気図を書くほどまでに熱中してしまった。
しかし、写真は撮っていたもののネオパンSSやSSS、トライ-XなどにY2やO2の濃いフィルターを付けて撮った写真には何故か不満を感じていた。やはり写真展で見たあの真っ黒な空にくっきりと浮かび上がった真っ白な雲が目に焼きついていたのである。
その頃、私は一冊の写真集を本屋に頼んでいた。名前は忘れてしまったが定価が3,500円くらいの大判サイズで、すべてモノクロで撮った雲の写真集であった。

大判サイズのこの写真集はページ全体に余白を取らずに写真が印刷され、ページを捲るごとに”ガッーン”と強力な衝撃を私に与えてくれた。鈴木正一郎先生の写真も素晴らしかったがそれ以上にこの写真集には凄い素晴らしさがあった。
同じ雲の生態記録写真なのだが芸術性の高い作品を見えいる様でもあった。

望遠で大胆にカットした写真、ワイドで緻密なまでに撮られた写真、かとおもえば増感してわざと粗粒子に仕上げた写真、見るもの全てがモノ新しく感動の連続であった。
それと各写真に明記された撮影データ。これが私にとっては一番参考になった。私はこの写真集によってミニコピーフイルムを使うことを知り、今まで思い悩んでいたあの”黒い空、白い雲”を手に入れたのである。

雲を撮るようになってからは55mmf:1.8の標準レンズ一本では物足りなくなってきた。
果てのない空に広がる雲を視野一杯に写し込むには広角レンズがどうしても欲しい。
35mm、28mmか24mm、そして欲を言えば魚眼レンズの3本があれば最高なのだが当時の私の給料では3本も買える程の余裕はない。ましてや雲以外にも広範囲に使えるレンズを一本だけに絞るとなると一番無難な28mmになってしまった。

そして手に入れたのがSPの純正レンズ、スーパータクマー28mmf:2.4であった。
ダイキャストシルバーのSPボディーには28mmレンズ、フィルターはY2かO2、そしてフイルムはSS、SSS、トライ-X、ミニコピーを使い分けて撮り捲くっていた。
当時のフイルムフォルダーのメモを見るとこの時期は雲ばかり撮っていたようだ。
たくさんのネガケースには所々に印があり気に入ったコマだけをラボに出してプリントしていた。

その後、風景と撮影会に凝った時期があった。
誰も同じ経験があると思うがポートレートや風景の撮影会などに参加すると、構図を決めるにしても標準や広角レンズだけでは無理な場面が多々ある。風景では遠くにある被写体を近くにグッと引き寄せてみたいと思うのが人情であり、ましてや回りに陣取るカメラマンが筒の長いレンズを装着していれば自ずと劣等感も湧きあがり、当然筒の長い望遠レンズが欲しくなってくる。
私に限らず写真をやっていれば早かれ遅かれ”レンズ欲しい病”が発症してくる。

この病は、傑作を生むが為に必要に迫られて発症する場合と、劣等感からくる必要でもないレンズをたくさん持っていたいと思う心の病として発症する場合がある。
俗に後者の場合を”道具屋”病とも言う。
私も例に漏れず一年ほど経ってから発症した。欲しいとなるといてもたってもいられず当時発刊されていた日本カメラ、アサヒカメラ、カメラ毎日のページを捲っては交換レンズの事ばかり考えていて写真を撮る気にもならなかった。

既に広角レンズは手に入れていたから”望遠レンズ欲しい病”の発症である。
この時も広角レンズの時と同じように3本に絞っていた。105mm、135mm、200mmであり、最終的には撮影目的と予算から考えて一番無難な135mmf:3.5に落ち着いてしまったのである。
欲しかった2本のレンズを手に入れてからは私の”レンズ欲しい病”も”ガマン”と言う特効薬で一応治まった。
それから、勤めていた会社主催の撮影会が何回かあったが当然手に入れた135mmレンズを着けての参加、スーパータクマー135mmf:3.5単玉の素晴らしい描写の真価が発揮されたのは言うまでもない。

(風のつぶやき 2005年5月記事より抜粋)

国際写真サロンinさくら市(2014.9.16)

栃木県さくら市のさくら市ミュージアムー荒井寛方記念館で開催されている国際写真サロン展を見てきました。
国際写真サロンは今回で74回、世界の写真愛好家を対象にした素晴らしい国際写真展です。
さくら市で素晴らしい写真展が開催されたのは平成7年、毎年開催されていますが今年で20回目になります。
巡回展みたいですが東京まで行かずに毎回県内で鑑賞出来るのでありがたいですね。
写真に興味のある方には、大変参考になる写真展ではないでしょうか。

主催は朝日新聞社・全日本写真連盟
協賛はキャノン株式会社・キャノンマーケティングジャパン株式会社
期間は2014年9月5日(金)~15日(月)
会場は栃木県さくら市ミュージアムー荒井寛方記念館
2014年9月7日(日)には写真教室やサロン展の解説会などもあるようです。

下は、同じ会場で2006年6月22日~7月9日まで開催された第66回国際写真サロン。

下は、さくら市ミュージアムの正面玄関。

下は、常設展示の郷土スペース。

さくら市ミュージアム -荒井寛方記念館-
栃木県さくら市氏家1297 Tel 028-682-7123

日陰の村(2004.11.10)